社労士小垂のコラム (No.6)

No.6 2013年7月22日

労働条件の不利益変更はできる

今回は「就業規則で労働条件を下げるには」についてご一緒に考えたいと思います。

アベノミクスで景気が上向いているなどと「幻想」に踊らされている感じがありますが、中小企業の実態は厳しいままであり、時として会社の経営状況や経済事情の変化で、労働時間や賃金体系を変更する場合があり得るかと思います。
この場合、就業規則を変更して新たな制度を導入するのですが、ここで問題となるのが変更の内容が社員にとって不利となる場合で、いわゆる「労働条件の不利益変更」ということです。
就業規則の変更は会社が独断で実施できますが、社員に不利な条件を作成した場合、作っただけでは効力が発生しないのです。

ちなみに、労働契約法では、
  • 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる
  • 使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の労働契約の内容である労働条件を不利益に変更することはできない
となっています。
ですから、不利益変更の場合は社員の同意を得なければ変更後の就業規則の効力が発生しないと解釈されるのです。

しかし、現実的に社員全員から同意書を取ることは難しいですし、同意を得なければ労働条件を変更できないのであれば、会社の存続問題にかかわってきます。
そこで、一定の場合には社員の同意がなくても就業規則での労働条件の不利益変更が認められているのですが、裁判の判例からみると「就業規則の変更に合理性があるかないか」という点がポイントになっております。

なお、最高裁は判決を出した際に合理性の基準として、下記の7つの要因を挙げています。
1.就業規則の変更によって、社員が受ける不利益がどのぐらいか
2.変更の内容、程度は妥当か
3.変更後の就業規則の内容が時代等に合っているか
4.代替措置などがあるか
5.労働組合等との交渉の経緯はどうなっているか
6.労働組合に属さない社員への対応はどうなっているか
7.同業他社の一般的な状況はどうか

ですから、もし就業規則を変更し、それが労働条件の不利益変更となる場合、「就業規則の変更の必要性の説明」「代償措置の設置、説明」「丁寧に」かつ「詳細に」伝えることが重要となってまいります。

労働条件の不利益変更は社員の生活に大きく影響し、特に給料、退職金、賞与などは社員の生活基盤と密接に結びつく部分ですので、変更の説明会や代償措置がとても重要になります。
しかし、これらのことを確実に実施しても紛争となる場合もありますので、考え得る最悪の場合も想定して、当たり前のことですが下記の手続きを真摯に実行することが大切です。
(1) 就業規則を変更するための必要な手続きがされていること
→ 社員代表等の意見書を添付して労働基準監督署へ提出する
(2) 変更後の就業規則が周知されていること
→ 回覧や配布し、周知方法について担当者の意見書をもらう
(3) 就業規則の変更がどのようになっているか
→ 変更箇所の一覧表を作成する
(4) 労働条件を下げなければならない必要性の証拠を整理しておくこと
→ 決算書を保存、弁護士等の専門家の意見書をもらう
(5) 労働条件を下げなければならない必要性の証拠を整理しておくこと
→ 変更後の内容が社会一般的に妥当かどうかの資料を整理しておくこと
(5) 労働条件を下げなければならない必要性の証拠を整理しておくこと
→ 新賃金の水準に関する資料、比較のための業界データなどを収集する
(6) 代償措置、経過措置を講じていること
→ 給与を下げる代わりに、定年を延長する、労働時間を短縮するなど
(7) 社員との交渉経緯を記録に残しておくこと
→ 会議記録、他の社員の合意書など
ここまで準備を考えておけば、紛争等になってもすぐに対応が可能です。

ちなみに、労働紛争の相談に関するデータ(厚生労働省)では、労働条件の引下げに関するものは、平成21年度(38,131件)、平成22年度(37,210件)、平成23年度(36,849件)と微減しているものの、解雇やハラスメントに次ぐ非常に多い件数となっています。
ですから、政治、経済の変化で会社が置かれる環境が変化し、いたしかたなく労働条件の変更を検討する会社は、紛争に対する備えを検討することは必須ですので、そんな時はコラムをもとに、押さえるべきべきポイントを把握して、万が一に備えて下さい。

「会社が厳しい状況だから、こう変更しました」とだけ発表しているケースも多々ありますが、それは非常にリスキーで、下手をすればさらに会社の存続を危うくする危険性をはらんでいるのです。

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