社労士小垂のコラム (No.45)

No.45 2020年3月24日

同一労働同一賃金への備えは万全ですか?(5)

いつもお世話になりありがとうございます。

No.41でお伝えしたとおり、同一労働同一賃金とは、同じ労働に従事する労働者にはその雇用形態にかかわらず同じ賃金を支給するという考え方です。

これまでも労働関係法において一定のルールがありましたが、2020年4月からはさらに徹底されることになっています。

今回は、同一労働同一賃金が重視されるようになった背景、また、企業における対応方法やメリット・デメリットなどについて解説する最終回となりますので、これまでのまとめをして参ります。

1.同一労働同一賃金の導入を機に、これからの世の中において目指す姿とは

本文中では、わかりやすく対比を表現するために「非正規」という言葉を多用しましたが、そもそもその言葉自体が同一労働同一賃金の取り組みを進めていく上で違和感のある言葉ではないでしょうか。

厚労省の同一労働同一賃金ガイドラインにも、この取り組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにし、「非正規」という言葉を一掃することを目指すとあります。

この同一労働同一賃金が、これまで非正規労働者を多用して人件費を抑えるという人事戦略をとってきた会社にとっては、非常に重要な局面となることは間違いありません。

非正規労働者のなかには、正社員として働きたいと希望しているものの機会に恵まれないという「不本意非正規」の方も全体の15%を占めており、待遇改善によってモチベーションをあげることが可能です。

この機会に非正規社員を含む社員の能力開発・向上に力を入れ、生産性の向上と処遇改善につなげていってはいかがでしょうか。

2.同一労働同一賃金において、企業に求められる対応

①人事制度や就業規則の見直し、変更の検討が必須

基本給、昇級、賞与、各種手当、福利厚生などの点で、正規雇用者と非正規雇用者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間に不合理な待遇差がある場合は、人事制度や就業規則の変更を検討する必要があります。

なお、よく設けられている待遇差の要因として『無期雇用フルタイム労働者と有期雇用労働者又はパートタイム労働者は将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる』というものがあります。

しかし、『厚生労働省ホームページの同一労働同一賃金ガイドライン』によると、このような主観的・抽象的説明では不十分だとしていますので、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実体に照らして不合理でないよう、配慮する必要があります。

②各種手当も同一額の支払いが求められます

基本給と同様、手当においても不合理な待遇差は禁止されます。

時間外手当、休日手当、通勤手当、単身赴任手当、出張旅費などは、正社員と同じ基準で支払わなければなりませんが、一方で、基本給、賞与、役職手当など仕事の内容が異なる場合には違いに応じた支払いをすることができます。

③休職・休暇についても、正規社員と同じ待遇を

休職、休暇も原則として正規社員と非正規社員で同様に与える必要があります。また、厚生労働省のガイドラインによると、病気休職については以下のような記述があります。

無期雇用パートタイム労働者には無期雇用フルタイム労働者と同一の、有期雇用労働者にも労働契約の残存期間については同一の付与を求める

法定外年休・休暇についても、正規社員と非正規社員で差を設けることは認められていませんし、勤務期間に応じて付与される場合には、正規社員であっても非正規社員であっても、同じ日数を付与しましょう。

ただし、リフレッシュ休暇などの勤務時間・勤務日数において支給されるものについては、その限りではありません。

④定期昇給も正規社員と同じ昇給を

厚生労働省のガイドラインによると、昇給についても以下のような記述があります。
「勤続による職業能力の向上に応じて行おうとする場合には、同様の職業能力の向上には同一の、違いがあれば違いに応じた昇給を求める」ものですので、正規社員と非正規社員で昇給率が異なることがないようにしましょう。

⑤学歴・一般職/総合職・成果報酬…、各条件によっての企業の対応方法は?

学歴や、年齢による待遇の差や、成果報酬制度を導入している企業は、どう対応すればよいか不安に思うかもしれません。

今回の改正は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を解消することが趣旨ですので、合理的な理由がある場合に限って待遇に差をつけること自体、特段問題はないと言えます。

例えば、成果報酬を導入している場合、その他の条件に違いがないのであれば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者は同一の賃金を支払う必要があります。

一方、次のようなケースで、職務の担当範囲が異なる場合や責任が伴う職務になる場合の多くは、合理的な理由があると判断されます。

学歴や経験年数によって異なる賃金制度
(例)学歴や年数次第で、より高度なマネジメント業務を含めているための賃金の差は認められる
一般職と総合職の違いによる異なる賃金制度
(例)同一業務でも、責任範囲や転勤の有無によって賃金の差は認められる

これまで5回にわたり「同一労働同一賃金」についてみて参りましたが、いかがでしたでしょうか。

これまでの考え方を大きく変えていただかないと対応が難しい局面がすぐそこに迫っておりますが、これを機に人材活用のあり方を設計し直す好機ととらえ、さらなる企業成長の一助にしていただければ幸いです。

改正法の施行まであと半月(中小企業は1年)は非常に短く、早急なご対応が必要になりますので、ご注意くださいますよう、よろしくお願いいたします。

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