いつもお世話になりありがとうございます。
前々回(7月)でお伝えしたとおり、同一労働同一賃金とは、同じ労働に従事する労働者にはその雇用形態にかかわらず同じ賃金を支給するという考え方です。
これまでも労働関係法において一定のルールがありましたが、2020年4月からはさらに徹底されることになっています。
今回は、同一労働同一賃金が重視されるようになった背景、また、企業における対応方法やメリット・デメリットなどについて解説する3回目となります。
何度も言いますが、同一労働同一賃金が目指すのは、なんといっても正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇の確保であり、具体的には、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消をはかるために両者を比較し、前提が同じなら待遇も同じ(均等)、前提が異なるなら、バランスのとれた待遇(均衡)を求めるものです。
待遇差の改善といっても給与、賞与、福利厚生など、何がどこまで求められるのか、分かりづらいとお悩みの経営者の方も少なくありません。
ちなみに、同一労働同一賃金の目的は非正規労働者の待遇改善なので、均等・均衡をベースに待遇を見直した結果、労働者の待遇を下げるようなことがあってはならないとされています。
ただし、長期的な観点で考えると支給基準や評価制度の見直しにより、待遇が向上する労働者が出る一方で、将来的に今より待遇が下がる労働者が出てくる可能性も十分あり得るというのは、よくとりざたされる問題点です。
比較区分 |
具体的な雇用形態 |
ポイント |
---|---|---|
正規雇用労働者 |
無期雇用のフルタイム労働者(正社員等) |
無期転換したフルタイム労働者も含む。 無期転換したフルタイム労働者は、直接的には待遇改善のターゲットには入っていない。 |
非正規雇用労働者 |
有期雇用労働者 パートタイム労働者 派遣労働者 |
待遇改善のターゲット ただし、派遣労働者は分けて考える必要がある。 |
ここでいう正規雇用労働者とは、期間の定めのない雇用契約を結びフルタイムで働く労働者で、具体的には正社員や無期転換したフルタイム労働者が該当します。
非正規雇用労働者とは、有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者を指し、この非正規で働く方が同一労働同一賃金制度の導入による待遇改善のターゲットです。
そうなると、正社員と無期転換したフルタイム労働者の間に待遇差がある場合はどうすればよいのかも気になるところですが、両者の間の均等・均衡は当然確保できている前提の話ととらえてください。
同一労働同一賃金の話は、あくまで正規と非正規の待遇差を改善するものです。
もうひとつ問題点となるのは、派遣労働者への対応です。非正規雇用労働者の枠組みには派遣労働者も含まれているのですが、派遣労働者はその他の非正規の方とは分けて考える必要があります。
派遣労働者については労働者派遣に関する法律で、派遣先の労働者との均衡を考慮するよう定められており、企業の垣根を超えた同種の業務に従事する労働者の賃金水準との比較も盛り込まれることになっています。
今回からは、同一労働同一賃金制度を導入する際の具体的な判断基準を紹介しますので、確認してみてください。
まず、正規と非正規で賃金テーブルや賃金の支給基準が異なるという会社は非常に多いと思います。また、賃金テーブルや賃金の明確な支給基準自体が存在しないという会社も数多く存在するのではないでしょうか。
先に言ってしまうと、賃金テーブルや給与の支給基準が存在しないという問題を棚上げしたままでは、同一労働同一賃金を考えることは不可能です。
まずは、職務や能力等を明確化し、その職務や能力等と給与等の待遇との関係を含めた処遇全体を確認し、明確に説明できる状態に変えていくことが必要です。
その上で、正規・非正規の間に待遇差がある場合は、どんな考慮要素をもとに待遇に差を設けたのか具体的に説明できる状態にしておくことが求められているのです。
正規・非正規の賃金テーブルを見直す場合は、できればこの機会に賃金テーブルを1本化することが望ましいですが、難しい場合は2本に分ける理由を具体的に説明できるようにしておきましょう。
ここからは、具体的な項目ごとに正規と非正規で待遇に差をつけることの合理性が認められるか否か、問題点に沿って解説していきます。
基本給は会社ごとに支給基準が異なります。職能給、職務給、役割給、成果給、勤続・年齢給と、5つの支給基準ごとに、同一労働同一賃金制度を導入する際、正規と非正規とで待遇に差を付けることができるのか、できないのかを図表にしたので確認してみてください。
支給基準 |
定義 |
ジャッジ (正規と非正規で待遇差を付けることの合理性) |
解説 |
---|---|---|---|
職能給 |
人基準の賃金 労働者の職務遂行能力を基準にして定められる賃金 |
合理性なし |
同一の職業能力と経験を持つ場合は、同一の支給が必要。 |
ただし |
人に付随する職務限定、勤務地限定などの制限の有無によって差を付けることは認められる。 |
||
職務給 |
仕事基準の賃金 労働者の担当する職務(仕事)を基準にして定められる賃金 |
合理性なし |
もともと仕事基準の賃金なので、同一労働同一賃金が前提。 |
役割給 |
期待役割基準の賃金 労働者の担う職務に対する期待役割を基準にして定められる賃金 |
合理性あり |
正規と非正規で求める役割(職務内容や配置転換の範囲・キャリアステップ、責任の程度)が異なる場合、一時的に同一の職務能力を保有あるいは同一の職務に就いていても正規・非正規の間で差をつけることの合理性は認められる。 |
ただし |
将来の役割期待が異なるという抽象的な説明では足りないので、求められる役割と賃金の差の客観的・具体的な基準を担保する必要がある。 |
||
成果給 |
労働者の実績・成果に応じて決定する賃金 |
合理性なし |
同一の業績・成果がある場合は、同一の支給が必要。 |
ただし |
目標の達成・未達成時のペナルティに正規・非正規の間で取り扱いの差がある場合は、そのバランスに応じた待遇差を設けることは合理性が認められる。 |
||
勤続・年齢給 |
労働者の年齢や勤続年数を基準にして定められる賃金 |
合理性なし |
勤務形態にかかわらず、勤続年数・年齢に応じた支給が必要。 |
このように基本給の支給基準によって、基本給に待遇差をつけることが認められる場合と認められない場合があるので、基本給の待遇差について迷った場合は自社の支給基準がどのカテゴリに属するかを確認して、上の表と照らし合わせてみるのがよいでしょう。
ただ、たとえば職務給とは言いつつも人事考課のポイントをみると職能の要素を含んでいる場合など、名称と実態が異なるケースも散見されます。
同一労働同一賃金を検討するにあたり賃金テーブルの見直しを行うのと同時に、社員の誤解を招くことのないよう、実態にあわせた名称の見直しも必要となるでしょう。
次回も、皆様方が同一労働同一賃金を導入するに当たり、気をつけなければならない具体的な内容について考えて参りたいと思います。
改正法の施行まであと4ヶ月(中小企業は1年4ヶ月)は非常に短く、早急なご対応が必要になりますので、ご注意くださいますよう、よろしくお願いいたします。