社労士小垂のコラム (No.42)

No.42 2019年9月25日

同一労働同一賃金への備えは万全ですか?(2)

いつもお世話になりありがとうございます。

前回(7月)にお伝えしたとおり、同一労働同一賃金とは、同じ労働に従事する労働者にはその雇用形態にかかわらず同じ賃金を支給するという考え方です。

これまでも労働関係法において一定のルールがありましたが、2020年4月からはさらに徹底されることになっています。
今回は、同一労働同一賃金が重視されるようになった背景、また、企業における対応方法やメリット・デメリットなどについて解説する2回目となります。

同一労働同一賃金が目指すのは、なんといっても正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇の確保であり、具体的には、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消をはかるために両者を比較し、前提が同じなら待遇も同じ(均等)、前提が異なるなら、バランスのとれた待遇(均衡)を求めるものです。

待遇の違いの合理性に関する考慮要素
ケース
判断
①職務内容
(業務内容+責任の程度)
②職務内容・配置の変更範囲
(人材活用の仕組み、運用等)
③その他の事情
①・②が正社員と同じ場合
同じ待遇が求められる = 均等待遇
①〜③が正社員と異なる場合
①〜③を考慮した、バランスのとれた待遇差が求められる = 均衡待遇

今回は、企業が同一労働同一賃金を導入するにあたり、具体的にどのような対応をしていけばよいのかについて、4つのポイントに絞って解説します。

1.正社員と非正社員の職務内容などを明確にする

同一労働同一賃金の考え方は、正社員と非正社員の職務内容が同じであれば同じ賃金を支給し、違いがある場合にはその違いに応じた賃金の支給をしなければならないというものです。これは賃金以外の待遇(福利厚生や教育訓練など)でも同じです。

このため、まずは、正社員と非正社員の職務内容を明確にする必要があります。

これについては、同一労働同一賃金ガイドラインで以下のように明示されています。

「今後、各事業主が職務の内容や職務に必要な能力等の内容の明確化及びその公正な評価を実施し、それに基づく待遇の体系を、労使の話合いにより、可能な限り速やかに、かつ、計画的に構築していくことが望ましい。」

つまり、非正社員の納得を得るためにも、正社員と非正社員の待遇体系の違いを明らかにする必要があるということです。

具体的には、待遇の違いについて、社内規程などで明確になっていないのであれば、すべて規程化するなどして、非正社員を含む労使間で共有する必要があるということです。

2.人件費を算出して人員を調整する

同一労働同一賃金を導入すると、当然ながら、人件費の高騰が予測されます。導入にあたっては、前述のように職務の内容など明確にしたうえ、非正社員に正社員と同様の待遇とする部分、しない部分を整理し、実際にどのくらいの人件費になるのかを算出する必要があります。 算出した想定人件費が予算で賄えないということであれば、人員を調整することも検討しなければなりません。

一般的に、企業で人員調整を行う場合には、まずは、非正社員である短時間・有期雇用労働者および派遣労働者などから検討する傾向にありますが、それでは、同一労働同一賃金の趣旨からも外れたものになります。正社員を含めた全体的な人員調整であり、生産性、効率性を考えたものとしなければなりません。

なお、解雇については、企業側の判断で勝手に行えるものではなく、一定の要件がありますので、ご注意ください。

3.商品・サービスの値段を上げて生産性を上げる

同一労働同一賃金を実現しつつ業績を維持し、さらに向上させていくことは容易ではありません。上記のように人員を削減するのは従業員とのトラブルなどリスクを伴うことも多く、また、人材不足でこれ以上は削減できないということも考えられます。

このような場合には、可能であれば、商品やサービスの値上げも一つの方法です。

ただし、商品やサービスの値上げをすると、消費者は敏感に反応することも多いため、需要量と供給量など綿密な分析が必要です。

4.正社員の賃金の引き下げを検討する

上記の対策ではいずれも難しいという場合には、非正社員の賃金を引き上げるとともに正社員の賃金を引き下げて均等・均衡待遇を図ることも考えられます。

同一労働同一賃金ガイドラインにおいては、非正社員の待遇改善のために、労使で合意することなく正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえないとされていることに注意が必要ですが、逆に言えば、労使の合意を得ることができれば、正社員の待遇を引き下げることも不可能ではありません。

手を付けやすいところで言えば、基本給以外の手当の引き下げです。

たとえば、賞与の減額、食事手当の廃止など、法律で支給の義務づけがない手当は引き下げやすいでしょう。

人事労務担当者は諸手当の意味について認識したうえで、手当の支給要件の見直しや引き下げを検討することが重要です。

賃金の引き下げは、労働者を不安にさせ、モチベーションを低下させるとともに、場合によっては、裁判に発展するなど深刻な事態も考えられます。金額の多寡にかかわらず、慎重な対応が必要です。

まとめとしては、同一労働同一賃金は、労働関係法の改正案を含む「働き方改革関連法」の成立により、2020年4月1日から施行(一部を除き、中小企業については2021年4月から適用)されます。

正社員と非正社員との間の賃金などの待遇に関する格差は、非正社員の労働意欲に影響を与えるため、非正社員が納得できる待遇とし、雇用形態によらない能力を評価する環境を整える必要があります。

同一労働同一賃金ガイドラインでは、非正社員の待遇を改善するために、正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応ではないとされていることにも注意が必要です。

次回も、皆様方が同一労働同一賃金を導入するに当たり、気をつけなければならない具体的な内容について考えて参りたいと思います。 改正法の施行まであと6ヶ月(中小企業は1年6ヶ月)は非常に短く、早急なご対応が必要になりますので、ご注意くださいますよう、よろしくお願いいたします。

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