社労士小垂のコラム (No.40)

No.40 2019年5月24日

社員への損害賠償はいくら請求できるのか?

いつもお世話になりありがとうございます。

元号が令和になったお祭り騒ぎやゴールデンウィークの初の10連休も終わり落ち着いて参りましたが、いかがお過ごしですか?


最近の会社がらみの事件の中に、横領、使い込み、贈収賄等の記事が結構目につきます。 いつの時代でもごく一部(大半は真面目に社会生活を送っておられます)悪いことをする社員は必ずいるようです。

そこで今回は、「社員への損害賠償の請求金額について」をご一緒に考えてみたいと思います。

当然のことですが、社員による横領が発生した場合、会社は横領された金額の回収を行わないといけません(損害賠償請求)。
ただ一般的によくあることですが、横領のような社員の故意や悪意ではなく、仕事上での「うっかりミス」でおこってしまった過失の場合、「社員にどれだけの損害賠償を請求していいのかがわからない」というご質問が社長様からあります。

例えば、「仕事で運転していて、会社の車をぶつけてしまった」「お客様に納品する製品を落として壊してしまった」などのケースがあります。

大手の会社では「損害保険等で対応し、社員個人に請求することは無い」というところも多いと思いますが、中小企業となると全てを保険等でカバーできているとは言えないことも多いかもしれません。

社員の過失等で会社が損害を受けた場合、会社にはどの程度の額が社員に対する損害賠償としての請求が認められるのでしょうか?

ちなみに、社員に対する損害賠償は法的にも認められていますが、あらかじめ、損害賠償の額を定めておくことは労働基準法で禁止されております。
そして、社員の損害賠償責任とその制限については、昭和51年に最高裁が判断した裁判が基準となって現在にいたっております。 

その金額は、「社員の加害行為は業務に関連したものであり、損害賠償の限度額は4分の1を限度とすべきである」とし、結果として、業務上の過失があり、損害が発生した場合は損害額の満額を請求することは不可能となっております。

もちろん、社員の過失の程度が大きければ、賠償額も大きくなる可能性はあります。

例えば、ガリバーインターナショナル事件では、取引先にだまされて生じた損害につき、店長の重過失を認め、賠償額を2分の1としたものもあります。

さらに、社員の故意や悪質な行動の場合は、このような制限は認められておらず、100%損害賠償の金額が認められております。

また、セクハラ行為に関して会社が損害賠償を請求する場合、加害者である社員に対して、被害額(被害者から請求され、和解した額、裁判で認められた額)の全額を請求することができます。

このように社員が起こした行為の「程度」によって、損害賠償を請求できる金額は、被害額の全額請求できるのか、半分なのか、4分の1なのか、となります。

これを決める要素として、
  • 社員の過失の程度
  • 社員の業務における義務違反の程度
  • 職種による事故や損害の生じる危険性
  • 業務の内容
  • 事故等の予防体制
  • リスクの分散(任意保険等の加入)
  • 類似の事故等に対するこれまでの会社の対応
  • 労働条件(過重労働の有無、給料の額等)
などがあり、裁判等では、これらを総合的に勘案して判断しているようです。

もちろん、会社は社員が不正をしたり、横領をしたりすることを前提として制度を作ってはいませんが、現実的には一定の確率で不正や犯罪が発生していることも事実です。

よく言われることですが、「なぜ、一般家庭ではあまり購入しない切手シートが金券ショップで大量に売られているのか」などを考えてみますと、うなずけることかと思います。

表面化していないが、水面下に潜っているだけで、多くの会社でも何かしらの不正が起きている可能性もあります。

不正に限らず、過失も含めての対応になりますが、社員が不正、ミスした場合の懲戒処分について、就業規則に明記することはもちろん、内部管理のチェック体制、リスクの保全環境も整えておく事が大切なのではないでしょうか。

とくに、就業規則に明記していない項目で処分はできないとする判例を見ても、取り急ぎ社内規程の確認をされることをお勧めします。

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