社労士小垂のコラム (No.4)

No.4 2013年1月25日

パワハラを防止するための注意点

皆様も十分ご承知のこととは思いますが、精神疾患(うつ病)が急増しており、それを業務災害として労災申請をし、労災として認定される件数が急増しております。
業務災害として認定され、会社の安全配慮義務違反が問われ、多額の損害賠償を請求される元となりうる「パワハラの防止」についてお伝えします。

昨今のデフレスパイラルや不況のため、社員のリストラを行なったり、給料も上がらなかったりという会社も多くなっていますが、そうなると当然、会社の雰囲気も悪くなり、従業員のストレスも溜まり、上司と部下のトラブルも増えています。
売上目標の未達が続き、数字を上げられない部下に上司がいらだち、「結果を出すまで帰ってくるな」などと怒鳴っているケースもよくあります。

しかし、ここで皆さまに気をつけていただきたいことは、これがいきすぎると「パワハラ」となってしまうということです。
  • 罵倒、侮辱、脅迫をする
  • 仕事に必要な情報を与えない
  • 達成不可能なノルマを強要する
  • 仕事を与えない
  • 暴力を振るう
など、さまざまなケースが考えられます。

ちなみに、パワハラと対比されておりますのがセクハラですが、マスコミなども大きく報じたケースがあり、労働局がセクハラ防止を就業規則に記載するように指導してきたことなどが功を奏して、セクハラは「企業のリスク管理」として、意識が浸透してまいりました。
また、セクハラ防止については「男女雇用機会均等法」にも定められています。

しかし、パワハラは法律に明記されておらず、しいて言うならば、民法の不法行為(不法行為とは、ある人の行動が他人の権利などを侵すこと)に該当するレベルなので、セクハラと違い、放置されているケースが非常に多いのです。

さらに、パワハラをやめさせようとしても、ある判例では、上司らによる部下への暴言等があったため、この行為の差止めを求め、裁判を起こした例がありましたが、裁判所は部下の申立てを退ける判決を出したように、特に悪質でない場合は裁判所も認めてくれません。
この判決では、部下からの訴えに対し、精神的な苦痛が日常的ではなく、精神的に疲弊し、心身に傷害を発症した等の事実がないとし、パワハラの差し止めは認められませんでした。
しかし、悪質な場合には会社側が負けた判例もあり、いじめた加害者も会社も損害賠償を命じられました。

この時の事実確認では、
  • 男性看護師は、先輩により服従させられていた
  • 肩もみ、家の掃除、車の洗車、風俗店の送迎、パチンコ店の順番待ち、馬券購入などをさせられた
  • 社員旅行の際、飲食代約9万円を負担させられた
  • 男性看護師に好意を持っている事務職の女性と2人きりにさせ、性的行為をさせ、これを撮影しようと企てた
  • 仕事中に「死ねよ」と発言したり、「殺す」とメールした
  • 職場の会議で、男性看護師の様子がおかしいことが話題となる
  • 男性看護師が自宅で自殺
をしたことにより、この男性看護師の両親は裁判を起こしました。

裁判所は、この男性看護師の先輩はいじめた損害を賠償する責任(損害賠償金1,000万円)があり、病院側にも安全に配慮すべき義務違反(損害賠償金500万円)があると決定しました。

会社は従業員との雇用契約に基づいて「人間が人間らしく、働きやすい環境を保つ義務」がありますので、これを怠った場合は損害賠償を負うのですが、ここで特に注意すべき点がありますのは、パワハラについては「違法かどうかの明確な基準」がないことです。
たとえば、指導が熱心すぎたり、世代間のギャップにより誤解が生じたり、叱る上司と叱られる部下の意識の違いがあったりすることで、パワハラと感じるかどうかも変わってきます。 
また、業績を上げようと焦った場合、いじめなどの意図は無く、違法とまでいえるかどうかが微妙な場合もあります。

上司個人に行き過ぎがあっても、ギリギリの人員のため、会社が無理をさせている場合もありえますので、違法かどうかの基準がないだけに、非常にデリケートな問題になってまいります。
しかし、基準がないからといって、放置するわけにはいきませんし、法的な基準が無いだけに、敢えて「自社としての基準」を作ることで対応していく必要も出てきます。

私どもでお手伝いする就業規則には、必ずこの自社としての基準をご提案しておりますが、就業規則というハードがあればいいというものでは決してありません。
例えば、日頃から職場環境に目を配り、報連相の必要性を理解させたうえで、管理職への社員研修などを通じて、ソフト面からのアプローチこそが大切なのです。

会社というものは「人と人のつながりの世界」ですので、ハード面もソフト面も充実させていかなければならないのですから、このことを十分に認識されて組織運営をされることを、切に願っております。

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