社労士小垂のコラム (No.39)

No.39 2019年3月22日

給料を減額するときの注意点は何ですか?

いつもお世話になりありがとうございます。

アベノミクスで戦後最長の景気拡大などと実感を伴わない「幻想」に踊らされている感じがありますが、中小企業の実態は厳しいままであり、多くの社長様から「社員の給料を下げたいのですが、注意すべき点は何ですか?」というご相談を頻繁にお受けします。

ちなみに、社員の給料を下げることは「労働条件の不利益変更」と呼ばれ、法的にはとても難しいことといわれています。

就業規則の変更は会社が独断で実施できますが、社員に不利な条件を作成した場合、作っただけでは効力が発生しないのです。

ちなみに、労働契約法では、
  • 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる
  • 使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の労働契約の内容である労働条件を不利益に変更することはできない
となっています。

ですから、不利益変更の場合は社員の同意を得なければ変更後の就業規則の効力が発生しないと解釈されるのです。

そこで今回は、「労働条件の不利益変更」ではなく「降格人事」を実行するすることで賃金を減額する時の注意点について考えてみます。

例えば、部長に抜擢したものの、器不足のため、課長などに降格させることがあるかと思います。

ちなみに、昇格するための基準を定めている会社は多くありますが、降格についての基準がある会社はそれほど多くありません。
なぜならば、これは「降格 → 給料の減額 → 法的な問題」となる可能性があるからです。

当然、何の根拠も無しに「降格、給料の減額」は「法律上」許されませんので、この降格の基準を明確にしないとトラブルになることが多いのです。

具体的に考えてみますと、例えば、会社は期待を込めてAさんを「課長」から「部長」に昇格させました。
しかし、部長となったAさんは能力が不足していたため期待に応えることができず、結局、会社はAさんを課長に戻しました(=降格)。

ちなみに、この降格は『ミスをしたための「懲戒処分」としての降格』ではなく、単なる人事の発令で、部長から課長になっただけです。
そして、「役職が下がった = 給料も下がった」にすぎないのです。

過去に神戸地裁であった「星電社」の事例では、成績の不良などで人事権を実行するのはOKであり、当然に役職の変更に伴い、それ応じた給料となるのもOKであるとして、提訴した社員の訴えを退けました。

つまり、「人事権としての降格はOK」であり、「役職による給料の減額もOK」であるとしたのです。 

ここでの一番大きなポイントは、降格が「懲戒処分なのか」「人事権の行使なのか」ということです。

ちなみに、言葉の定義としては、
  • 懲戒処分・・・・・懲戒事由に該当し、制裁として降格
  • 人事権の行使・・・会社が人事を発令して降格(=単なる異動)
となります。

もちろん、懲戒処分としての降格をするには、就業規則での根拠(=降格の基準)が必要ですし、これに該当すれば、制裁として発動するだけのことです。

また、人事権の行使をする場合には、社内規定(=人事制度)に人事権の行使をするルールの記載が必要になります。
そこでは、業務内容と給料をリンクさせると同時に、役職に対する業務内容を明確にする必要があるということです。

具体的には、「部長職・・・月給50万円」ではなく、「部長職・・・月給50万円(基本給35万円、部長手当15万円)」とすることになります。
こうすれば、降格時に下がる給料が「部長手当分」となるのです。

さらに、職務を明確にすることも必要で、具体的には、「何が部長の仕事なのか」、「何をすれば、職務を全うすることが出来るのか」ということを明確にしておかなければなりません。

皆様方の会社では「降格に関する基準」を定めていますか?

多くの会社ではこうした「降格に関する基準」を定めておられませんので、現実問題として「部長にしたけど、その器ではなかった」ということがよくあり、本当に困っておられます。

もちろん、これを放置したら、組織のバランスに影響しますし、会社の発展を阻害する大きな要因になる危険性をはらんでおりますので、言いにくいとしても、実行せざるを得ない場合も多々あります。
社内規定としての人事制度も「会社を守る憲法」の一部ですので、十分な法律上の根拠となるように、きちんと整備・見直しが必要になります。

今一度、ご確認・ご検討されることをお勧めします。

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