社労士小垂のコラム (No.35)

No.35 2018年7月23日

従業員は就業時間外なら何をしてもいいのか?

いつもお世話になりありがとうございます。

新入社員が入社して早くも4カ月が過ぎようとしておりますが、順調に業務遂行出来ておりますでしょうか?

教育・育成担当の上司の方も、何かと苦労の多い毎日かと存じます。
そうした中で今回は、社員として肝に銘じておかなければならない考え方のうち、基本中の基本について皆様とご一緒に考えてみたいと思います。

それは、社員には「忠実義務」があるということです。
会社と労働契約を締結した社員には、ただ単に会社に労働力を提供するという義務だけでなく、その他の義務も負うことになり、一般的にはこれを「付随義務」といっております。

この付随義務の1つに「忠実義務」というものがあり、これは「会社の正当な利益を不当に侵害しないよう配慮する義務」というものです。

会社に働く社員に課されるこの忠実義務には、
  • 会社の信用、名誉を毀損しない義務
  • 業務専念義務
  • 秘密保持義務
  • 競業避止義務(会社の事業と競争的な性質の取引を禁止する義務)
などがあります。

もう少しかみくだいて言いますと、会社に働く社員には就業時間以外でも「会社の正当な利益を不当に侵害しないよう配慮する義務」があるということです。

つまりは、業務時間(拘束時間)外のプライベートの時間でも「会社の利益を侵害してはいけない」ということであり、これに反した社員に対しては、解雇等の懲戒処分の実施や会社が受けた損害への賠償請求ということもあり得るのです。

ある会社の営業の最高責任者が同一業種の自分の会社を設立し、独立しようとしたとして「懲戒解雇」された案件の裁判例がありますが、その裁判では、
  • <営業の最高責任者は会社に対して、高度の忠実義務を負うものである/li>
  • 在職中に会社と完全に競合するライバル会社の商品を同じ方法で販売することを企てたことは、経営方針に反対の意向を示すこと
  • 自分の地位を利用して部下を大量に引き抜くことは、会社に重大な損害を与えることは明白である
  • 営業の最高責任者の行動は会社に対する重大な忠実義務違反である
として、「懲戒解雇は有効」であるとされました。

この裁判のように、社員に会社への忠実義務違反が問われるケースは非常に多いのです。

そして、この忠実義務は管理職ほど重くなり、要職に就く者に対しては、特に厳しい結果が出ているのが現状です。

また他の裁判例ですと、
  • 列車の割引券を勝手に発行して、その後、隠ぺい工作をした支所長を懲戒免職として裁判となった事件で、懲戒免職を有効とした
  • 取締役解任に反対した幹部職員が、経営側を批判し、従業員に対し、「解任反対」の署名を求める行動について、裁判所は「企業秩序、経営秩序に反する社会相当性を欠く行為」として解雇を有効とした
というものもあります。

こうしたことから、このような行為が現実的に発生したら、会社は早急に対応する必要があります。

ただし、その時に気を付けなければならないことがあり、そうした「行われた行為」が「就業規則等の罰則規定」に該当することが明確、かつ、具体的に明文化されているかどうかということです。

このような記載がない就業規則等であれば、その「行われた行為」が罰則等の対象とならず、会社は「指をくわえて見ている」しかできなくなってしまうのです。

忠実義務に関しては就業規則の「服務規律」に記載されることが多いのですが、その際に服務規律違反について、懲罰の対象となることを記載してないと懲罰を科すことができないのです。

私どもでは、皆様の会社の社内規程等を拝見することが多いのですが、服務規定、懲罰規定がそれぞれ独立して記載されていて、「服務規律に違反したら、どんな懲罰となるのか」の関連性が抜けている就業規則が多いことに驚かされます。

このような社内規程等では「玄関にはきちんと錠がかかっているのですが、裏口はドアが開けっ放し」ということと同じです。

社員の忠実義務と懲罰規定は相互にリンクして初めて効果が発生するものですから、皆様の会社の就業規則も「ここがきちんとリンクしているか?」をチェックしていただくことが重要になってまいります。

そうしないと、その就業規則は「会社を守るためのもの」でなく、逆に「会社をリスクにさらしているもの」となってしまうのです。

さらに言いますと、「就業規則等に規定されていないことで社員を罰することはできない」との判例が出されておりますので、より「具体的な行動レベル」での記載になっておられるかを確認していただきたいと思います。

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