社労士小垂のコラム (No.25)

No.25 2016年9月25日

定年後再雇用社員の給料減額が可能か?

いつもお世話になりありがとうございます。

皆様方はもうご存じのことと思いますが、ゴールデンウィーク明けの週末に、東京地裁が下した「定年後の再雇用において同じ業務で賃金を下げるのは違法」という、衝撃的なニュースが飛び込んでまいりました。
そこで今回は、「定年後再雇用社員の給料減額が可能か?」をご一緒に考えたいと思います。

高齢者雇用安定法で義務化されましたので、皆様の会社でも社員が定年を迎えても、65歳まで働く機会を与えておられることと思います。
実際には、多くの会社では定年を迎えた社員を嘱託社員やパート社員として再雇用している形態となっております。

そしてこの場合、正社員と嘱託社員等では「身分が異なる」という理由で、定年前の給料から減額して、再雇用契約を締結するケースが大半ですが、この継続雇用が高齢者雇用安定法で義務化されました時には、厚生年金の特別支給の老齢年金は60歳からもらえましたので、減額された給与と老齢年金を合計すれば60歳時の給与と同程度の金額になる様に設計されました。

しかし、現在では老齢年金の支給は60歳ではなく引き上げられましたので問題が出てきました。

では、この裁判で下された判決の内容を見てみますと、
会社側は「定年後も同じ賃金で再雇用する義務はない」とし、退職金の支払いも実施しているし、社員の同意も得ているので、違法ではないと主張しました。

裁判所の判断は、会社の経営状況は悪くなく、賃金を抑える合理性はなく、再雇用が年金をもらえる時期までのつなぎだとしても、嘱託社員の給料を下げる理由にはならないと指摘し、「特段の事情」がない限り、同じ業務内容にも関わらず、賃金格差を設けることは不合理である。
として、嘱託社員3人の主張を全面的に認め、会社側にそれぞれ約100〜200万円を支払うよう命じ、会社側は敗訴となりました。

この裁判の判決から言えることは、定年前と定年後の業務が「全く同じ」であれば、給料の減額は違法となり、これは退職金の支給の有無も関係しないということです。

これは現在の安倍政権が目指している「同一労働同一賃金」の考え方と同じと考えられ、あくまでも同じ業務であれば、同じ給料の支払いを行わないといけないという判断です。

今、話題になっております「同一労働同一賃金」は有期雇用、パート、派遣といった非正規労働者と正規労働者の賃金格差をなくし、同じ仕事に対して同じ賃金を支払うという考え方です。

しかし、現実的な問題として、今回のようなケースは中小企業を中心に相当数あると考えられます。

もちろん、単にこの裁判例で全てが決まる訳ではありませんし、控訴すれば高裁で別の考え方が示される可能性もありますが、かなりのインパクトがあるのも事実です。

いずれにしても、定年後の再雇用時に給料を減額する(している)会社は、今後の対応として、次のような対応が必要となります。
  • 同じ業務を担当させない
  • 同じ業務を担当させる場合でも、責任の範囲を狭める
  • 同じ業務を担当させる場合でも、正社員時代より緩やかな処遇とする(転勤なし、ノルマなし、残業なし、休日出勤なし等)

このようにして、今までとの「差」を明確に「見える化」することが重要であり、定年後の嘱託社員等に「同意」してもらうのです。

事例の裁判例では「嘱託社員の同意があった」にも関わらず、裁判所は「社員は同意しないと再雇用されない恐れがある状況であった」とされ、「本当の意味での同意ではない」とみなされてしまいました。

これを防ぐには、職務分担等を書面化し、正社員と嘱託社員の違いについて説明し、その説明を理解した旨の同意をもらい、再雇用契約の締結を行うことが重要です。
ここまで実施すれば、仮に表面的な業務が定年前と定年後が似ていても、処遇、責任等の違いが明確化され、誤解を生み出す余地が無いところまで説明責任を果たすこととなるのです。

今後は「60歳になったら定年で、嘱託社員にして給料を下げて、同じ業務をさせる」ことはリスクが大きいと考えてください。
そして、定年後の総合的な処遇について、交わす書面の内容も含め、真剣に考え、対応する必要が出てきたのです。

労働人口が減少する中、政府も企業も高年齢者の活用が絶対条件に近い状況になりますので、できるだけ早急に対策を講じることが必要かと思いますので、ご検討くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

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