社労士小垂のコラム (No.2)

No.2 2012年9月25日

雇止め法理について

労働契約法の改正が行われて1ヵ月が経ちましたが、一部は8月10日より施行されています。
今回の改正目的は、有期雇用者に対して有期労働契約が反復更新される中で生じる雇止めに対する不安を解消し、また雇用期間が有期である事によって不合理になりがちな労働条件を是正するための法整備であり、労働者保護の立場にある法律がさらに保護を強化した感は否めません。

そこで、改正公布日から施行されている「雇止め法理の法定化」についてですが、雇止めとは、有期労働契約で期間満了後の契約を更新しないこと、特に何度か契約更新を繰り返しているにもかかわらず、使用者=会社が契約更新を拒否することをいい、労働者保護の観点から、過去の最高裁判例により一定の場合にこれを無効とする判例上のルール(雇止め法理)が確立されており、今回の法改正では、雇止め法理の内容や適用範囲を変更することなく、労働契約法に条文化されています。

労働契約には、期間の定めのないものと期間の定めがあるもの(有期雇用)があります。
一般的に正社員と呼ばれるのは「期間の定めのない雇用」です。期間の定めのある雇用の場合は「契約社員」と呼ばれたり、派遣・パート・アルバイトの多くは期間の定めのない雇用です。

ところで、期間の定めのある雇用の場合、契約期間が終われば、会社はその労働者を自由に辞めされられるかといえば、そうではありません。
裁判判例や実務上の扱いでは、実態として期間の定めのない雇用の状態になっている場合や契約更新に合理的な期待がある場合は、解雇権濫用法理が類推適用されます(例、東芝柳町工場事件最高裁1974,7,22、日立メディコ事件最高裁1986,12,4)。
2012年8月に労働契約法に、この雇い止め法理が条文として追加され(労働契約法19条、当分の間は18条)、「使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみな」されます。

判断基準

雇い止め法理の要件に該当するかは、判断は総合的にされるので、一概には言えませんが、次のような点を注意してみていく必要があります。
また、判断は、最初の契約時から総合的に判断され、使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことだけで、労働者の期待権はなくなりません。
  • 継続雇用を期待させるような発言や態度があったか。
  • 他の人について、更新の状況。
  • 仕事の内容が、正社員と同じ(重なる)ものか?
  • 仕事が、臨時的・一時的なものか、恒常的なものか
  • 更新の回数や勤続年数
  • 更新の手続きはどのような形で行われていたか。
  • 更新の判断基準があるか、またそれを説明しているか
  • 契約期間の設定を理由は何か

例えば、特に問題がなければ、契約を更新してきたのに、突然更新をしないことや特定の人のみ更新をしない場合は問題有りでしょう。
また、更新手続きを行ってなく自動的に更新している場合は、期間の定めのない雇用に近いものといえます。中には、3年を超えると、雇い止めがしにくくなるから、3年を超えないうちに契約を終了するとの考えもありますが、それが合理的な理由になるとは個人的には全く思えません。

なお、労働基準法では、有期雇用契約について、指針を定めています。
指針では、労働契約時に、更新の有無や更新の判断基準を示すことを求めています。
また、1年以上働いたり、3回以上更新した場合は、契約更新を行わない場合は1ヶ月以上前に予告することを定めています。
また、更新をしない場合、労働者はその理由を書いた文書を会社に求めることができます。更新しない理由について「期間満了」だけでは不十分と通達は述べています。

条文の労働者からの更新・締結の申し込みは、要式があるのではなく、労働者が使用者の雇い止めに対して、何らかの反対の意思が使用者に伝わればいいとされています。また、紛争時の主張・立証(労働者側)は概括的に主張立証できればいいとされています。

本来なら、期間の定めのない雇用とすべきものを、期間の定めを置けば、解雇権濫用法理が適用されない、簡単に雇い止めができると考えて、脱法的に有期雇用としている例が多くあります。
また、その期間にしても、わざと短い期間にしてる場合も含めて、期間の定めのある雇用にするには、正当な理由が必要との規制が必要となっている時期かもしれません。
なお、労働契約法では、有期雇用の期間については、適切な期間にするよう求めています。

【雇止めに該当する有期労働契約】

1) 既に数回更新された有期労働契約で、その雇止めが、無期労働契約の解雇と社会通念上同じと認められるもの
最高裁第一小法廷S49.7.22日判決(東芝柳町工場事件)の要件を規定したもの
2) 有期労働契約の契約期間が満了となる時に、この有期労働契約が更新されるものと労働者に期待させるような合理的な理由があると認められるもの
最高裁第一小法廷S61.12.4日判決(日立メディコ事件)の要件を規定したもの

ここでの「合理的な理由の有無」については、最初の有期労働契約から最終雇止めされた有期労働契約の満了時までの間での、あらゆる事情が総合的に勘案されます。
また、一度、労働者が雇用が当然に継続するだろうと期待を抱いていたにも関わらず、契約期間の満了前に、使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に伝えたとしても、伝えたという行為だけで、直ちに合理的な理由がないとはされないとされています。

【要件と効果】

上記のいずれかに該当する場合に、使用者が雇止めをすることが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇止めが認められず、今までと同じ労働条件で、有期労働契約が更新されます。

【必要な手続き】

今回条文化されたルールが適用されるためには、労働者からの有期労働契約の更新の申込みが必要となります。
この場合、労働契約期間満了後であっても遅滞なく契約更新の申込みを行えば、条文化されたルールの対象となります。

このような契約更新の申込みは、使用者による雇止めの意思表示に対して「嫌だ、困る」と言う程度の、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもかまわないとされており、必ずしも書面での申込みでと限定されていうわけではありません。
ただ、現実的には口頭で「嫌だ、困る」と言っただけでは、最終的に言った・言わないの水掛け論にもなりかねず、書面で確実に意思表示を行う必要があります。

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