社労士小垂のコラム (No.17)

No.17 2015年5月20日

パワハラと指導の境界線とはどこなのか?

新年度になり2カ月近くが経とうとしておりますが、会員の皆様の会社でも新規採用されたフレッシュマンや人事異動による社員の配属により、新たな指導・教育がなされているのではないでしょうか?
そこで気になるのがパワーハラスメント(パワハラ)と指導についてです。

厚生労働省が「パワーハラスメント」の解説を出してから、会社も管理者(上司)も敏感になりすぎて、部下に注意、指導することを恐れてしまう現象が起きています。

そこで今回は「パワハラと指導の境界線とはどこなのか?」をご一緒に考えてみたいと思います。

最近、社長や部長などの経営職の方や管理職の方々からパワハラについてのご相談も多く、「部下のためを思って注意したのに、『パワハラではないか?』と言われた」というご質問が多いのが現状です。

もちろん、業務上は「注意する」「叱る」ということは必須ですが、上司は部下を指導しているつもりでも、部下によってはその受けとめ方も様々です。
また、上司自身が「パワハラと指導の違い」を理解していないと、「法律の落とし穴」に落ちてしまうこともあります。

そこで「パワハラと指導の境界線」を法的にみていきたいと思うのですが、まずパワハラの定義をみてみると、民法の「不法行為」にあたります。
そして、不法行為とは「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害する」ことをいいます。

この定義に関する裁判例を見てみると、
  • 女性マネージャーが上司から他の社員の前で違法行為の有無を問いただされ、マネージャー失格であるかのような言葉で叱責を受け、これが原因で女性マネージャーはうつ病となり退職し、この行為は違法だとし、裁判所に訴えた
そして、裁判所の判断は、
  • 上司の発言等は女性マネージャーに対する配慮に欠け、うつ病発症についての原因は上司の発言等による可能性があり、慰謝料300万円を認めるのが相当 として会社が負けたのです。

この裁判でポイントとなるのは「うつ病との因果関係」ですが、「部下の面前での叱責」により「配慮に欠ける」とも判断されています。

同じような裁判例が他にもあり、これらの裁判の内容を検討してみると
  • 上司が部下を他の社員の前で叱責
  • 他の社員にも聞こえるような大声で叱責
等をすると「配慮に欠ける」と判断される可能性が高くなるということです。

もちろん、実際の現場では部下を叱ることはよくあり、上司の考え方、部下の受け止め方によっては、双方共に「指導」と考えられることが多いですが、「他の社員の前」と「大きな声で叱る」という2要件を満たした場合、話は変わってきます。
こういう場合、上司は「指導」だと思っていても、部下は「パワハラ」と考えるケースも出てくるでしょう。

昔ではパワハラで会社が負けるケースはほとんど無く、裁判官も「パワハラを簡単に認めてしまえば、世の中が回らない」と知っているのではないかと思われることもあり、実際問題として、パワハラが裁判になるケースは少なかったのですが、最近は事情が変わってきています。

精神疾患(うつ病等)の労災認定が認められるようになり、長時間労働を削減するという厚生労働省の重点方針と相まって、会社の「健康配慮義務」が声高に叫ばれるようになりました。

また、従業員の権利意識が強くなり、労働争議や裁判に訴える事案が急増していますので、裁判になれば、前述の2要件は論点になってくるのは疑いのないところだと思われます。

ご相談でよくあるケースは、社長様や上司の方が「何かしらの問題が起きた場合、怒りがこみ上げ、思わず、その場で怒鳴ってしまう」というものですが、絶対にこういうことはしてはいけないのです。

もちろん、敢えて他の社員の前で「叱る、指導する」ということは重要なことです。
しかし、叱る相手やその状況、ならびにその方法を間違えると、大きな問題に発展することもあり、最も危険なのは他の社員の前で、感情に任せて怒鳴ってしまうことです。

こうなると社員も立場が無くなり、なぜそうなったのかという理由も言えなくなり、さらに、感情的なすれ違いを生むことにもなりますし、そうなった理由を改善できなければ、別の社員がまた同じ問題を起こす可能性も高くなってしまいます。

叱る目的で最も大切なのは、再度の事故が起きないようにすることであり、上司と部下との人間関係や信頼関係を高めることです。

パワハラのトラブルは、そのほとんどが「感情」の問題ですので、感情に任せて叱ることを避けることがポイントになってくるのです。

今一度ご自身の過去の体験を振り返っていただき、いかにして感情をコントロールして、理性的に対処できるかをお考えくださいますよう、よろしくお願いします。

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