社労士小垂のコラム (No.14)

No.14 2014年11月21日

労働時間を的確に把握していなくて大丈夫か?

11月から以下の内容で厚生労働省が定めた「過重労働解消キャンペーン」が実施されております。
  • 過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等に対し、重点監督を実施
  • 時間外・休日労働が36協定の範囲内であるかについて確認し、違法なら是正指導を実施
  • 賃金不払残業がないかについて確認し、違法なら是正指導を実施
  • 不適切な労働時間管理の場合、労働時間を適正に把握するよう指導
  • 重大、悪質な違反が確認された場合は送検し、公表

確かに、「過重労働、長時間労働は社員の健康に良くない・・・」と多くの社長様は理解されておりますが、労災事故などが起こったら、会社の存続を揺るがすような損害賠償額が要求されることもあるのです。

また、「うちの会社にはタイムカードがありません」という中小企業の場合、労働基準監督署の調査を意識して、もしくは残業代を軽減する対策として、タイムカードを設置しない会社が多く存在します。
そこで、「労働時間を的確に把握していなくて大丈夫か?」という内容でお話ししたいと思います。

タイムカードを打刻しない理由としては、残業時間の証拠がないために労働時間を客観的に計算できないとか、もし仮に社員から未払い残業の問題で訴えられても証拠がないからと考えているからです。
実は、「この方法は有効である」と考えられてきた側面もありましたし、「タイムカードの時間で残業代を計算することは無効である」という裁判例もありました。

この判例では、
  • 出社、退社時にタイムカードを打刻しているのは形式的なこと
  • タイムカードは従業員の遅刻、欠勤を管理するために設置されているだけ
として、「タイムカードで残業代は計算できない」としたので、「あっても無くても関係ないなら、無い方がいい」と考える方がたくさんいたのです。

しかし、裁判所が下した判決の「最近の傾向」としては、上記とは異なるものが多く出てきております。

例えば、社員の「個人の日記」に労働時間の記載あり、この日記には業務内容も記載されていたため、日記に書かれた労働時間は信頼性ありと判断され、「個人の日記」から残業代の請求を認めたものもあります。

この裁判例に限らず、最近の傾向は「会社側に厳しいもの」となってきており、社員が作成した 業務日報、業務週報、個人的な日記、パソコンのログインやログアウトの時刻、会社の開錠と施錠の時刻(セキュリティー会社の記録から)なども証拠になる可能性が高くなってきております。
さらに、タイムカード等により労働時間を把握していないことは、会社が労働時間の把握義務に違反していて、社員側の証拠に会社が反証できなければ、社員側の請求を認める傾向にもなっています。

これは裁判所の判決だけではなく、労働基準監督署の調査でも同じことが言え、「パソコンのログイン、ログアウトの時間=労働時間」と認定されたり、「作業時間を集計した資料」を根拠に残業代を計算された事例も報告されているように、会社にとっては厳しい裁判例や是正報告が出てきています。
当然の結論として、「あっても無くても関係ないなら、無い方がいい」と考えることは最近では通用しないのです。

そもそも、社員の労働時間の管理は「社員の安全と健康を守る」ためのもので、過重労働の防止策として考えなければならないものです。
皆様も良くご存じだと思いますが、月100時間超の残業をした社員が「調子が悪い」と会社に申告したら、会社は医師による面談をさせなければならず、これは会社の義務として法律で決められていることとなります。
このように残業時間については、労働基準法等で様々なハードルが設定されています。

しかし、中小企業(特に、社歴の長い会社)では、昔の社風、体質を悪い意味で引きずっていることがよくあり、問題として表面化することも多々あります。
これは残業代のことに限らず、セクハラやパワハラは会社にはあっても仕方がないとか、残業は美徳で長く働いた社員が偉いとか、営業マンは仕事中に遊んでいても数字さえ上がればいい、などという会社も現実にあります。

よくある現実ですが、こういう会社はいつ爆発してもおかしくない不発弾のようなものであると考えて欲しいのです。
ところが、往々にして社長様が気づいておられないということがよくあります。
実際に、トラブルが起こってから初めて気づき、私どもにご相談される方も多いのですが、実はそうなってからでは遅いのです。

本当に大切なのは「病気にならないように予防すること」なのですから、是非とも、手遅れになる前に手を打ってくださいますよう、よろしくお願いいたします。

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