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QCD改善事例

自ら考え行動する社員をつくる!

「場」をつくり、人を育てたミツ精機の挑戦

はじめに

 

「なぜこんな当たり前のことがわからないのだろうか?子供じゃないのだから、どうして自分で考えられないのか?」
 私の仕事は、中小企業の経営改革を支援することだ。当然、中小企業の経営者や管理者と話をする機会が多い。彼らからは自分の部下に考える力がないことを嘆く言葉を何度も聞いてきた。自ら考え行動することは重要だ。時には現状も否定し、自分たちが置かれている状況に適応する新たな考え方や価値観を持つ。そしてその新しい考え方に基づいて行動する。複雑で変化の早い経営環境の中で企業が勝ち残るには、このような思考と行動ができる自立型人財は不可欠だ。

一方で、自ら考え行動することについて、現場の社員からこんな声を聞いたことがある。

「私も考えてはいるのですが、どうせ上司は否定するに決まっています」

「うちの会社では、考えを出したところで評価されません」

考えを表明できる場や認める風土がないために、自ら考え行動することを封じているのではないかとさえ思える一言だった。

自ら考えて行動するといっても、それほど簡単なことではない。社員のやる気と能力、上司や同僚との関係、仕事への納得感など、様々な要因が絡みあって人は動く。だから私は、自立型人財を育てるには「場」を作ることが重要だと信じている。社員個人の努力だけに期待するのではなく、会社として「場」を作り、そこで会社の風土や人を変えることが重要だ。

本稿では、「場」を通じて自立型人財を育てることに成功したミツ精機株式会社の取り組みをもとに、その効果を紹介したい。

 

自立型人財とはどういう人財か

 

 私は自立型人財を、①成果が出るまでやり遂げようとする意欲を持ち②成果を出すのに十分な特性を備えた人財、と定義している。

①は一般的に「やる気」や「モチベーション」と呼ばれるものだ。どんなに優秀な人財であっても、仕事や改善に対するやる気がなければ行動しない。無理矢理に動かしても成果には限りがあろう。

義務、賞罰、強制による動機づけは、自立型人財の育成にはあまり効果がない。「義務を果たすこと」や「給与を得ること」が目的となり、自発性は低く、行動も継続しない。

反面、仕事を通して心の内面で得られる喜びや楽しみによってもたらされる動機づけ(内発的動機づけ)が、自立型人財の育成には有効だ。「仕事で認められること」や「自分が成長すること」が目的となり、自発的で継続的な行動につながる。

②は「スキル」(知識や技術、技能)と「モラル」(意識、態度)のことだ。この分類はマクレランドという心理行動学者が提唱する考えに基づいていて、分かりやすく氷山に例えられる(図1)。水面下にあることから想像できるように、モラルは注目されにくい。しかしスキルとモラルは両方備えなければならない。いくら高度なスキルを身につけていても、組織の考えに沿わない行動を繰り返せば、問題を引き起こすからだ。

ある食品製造業にAさんという管理職がいた。Aさんは食品化学に造詣が深く、商品開発や品質管理の経験も豊富だった。スキルは申し分ない。ただしAさんは生産効率を重視するきらいがあった。例えばすぐに加工機に投入できるよう、肉や魚といった生ものを機械の横に置いたままにすることがよくあった。当然、痛む恐れがあり、衛生的ではない。Aさんには「食べ物はお客様の体内に入るものだから、衛生に気をつけなければならない」というモラル(意識や態度)が希薄だったのだ。

 

図1 氷山モデル

 

モラルが備わってなければ、どんなに高度なスキルがあっても、不衛生な場所にものを置いてしまう。これを問題だと認知できなければ、自ら考えて改善しようとも思わない。

ここで「それくらい常識だ」と切り捨てるのでは問題解決にならない。外国と日本では常識が異なるように、家庭環境や世代によっても常識は異なるし、業界や会社によっても常識は異なる。何がわが社にとっての常識なのかは、教えなければ正確には伝わらない。

「モチベーション」「スキル」「モラル」を高めるには、私は「対話の場」を設けることが最も重要だと思っている(図2)。対話の場とは、単に話をする場ではない。そこに参加するメンバーがお互いに影響を与え合う場のことであり、情報だけでなく感情までも伝える場だ。

一例を紹介しよう。ある製造業で、「創業者塾」という技術伝承の場を設けた。そこでは技術(スキル)はもちろんのこと、品質に関する基本的な価値観や考え(モラル)を創業者が部下に伝えた。創業者の持つ技術と品質に対するこだわりに部下は驚き、尊敬や信頼の気持ちが芽生え、仕事の面白み(モチベーション)を新たに感じたという。

最近は従来にも増して効率を求められるため、忙しくて上司と部下の対話が減っていたり、メールを多用したりと、対話の機会は昔に比べて減っている。それが部下のモチベーションやスキル、モラルを高める機会を減らし、ひいては自立型人財が育たない一因になっている。

 

図2 自立型人財が育つ

 

受け身社員ばかりでは経営改革は進まない

 

 対話の場を通じて、社員の「スキル」「モラル」「モチベーション」の3つを高めるにはどうすればよいだろうか。ミツ精機株式会社の事例を紹介しながら説明しよう。

 

 

 今でこそ日本一が視野に入る素晴らしい企業に成長したミツ精機だが、何の問題にも直面せずに成長してきたわけではない。

十二年前、ミツ精機の三津清社長(現在は相談役)は、会社をより発展させるために、次のような考えを持っていた。

  • 急速に力をつけてきた中国やアジア諸国の企業には真似のできない固有技術を持つ
  • グローバルな価格競争に負けないコスト体質へと変貌する
  • より一層スピーディな対応をする

この三つが、厳しい経営環境の中で勝ち残る条件だと考えていた。これらを実現する経営改革に取り組もうとしたのだが、改革はなかなか進まない。組織に旧弊のアカが染み付いていたのだ(図3)。

図3 組織に染み付いたアカ

 

 そのなかには、社員が自立型人財になるのを妨げるアカも多く含まれている。

例えばコスト体質を大幅に改善するには、製造部門と購買部門や生産技術部門など、部門間の協力が必要だ。しかしお互いが協力的でなければ、自らそこへ関与しようという気は起こりにくい。

 自主性・チャレンジ精神に欠けるというのは、自立型人財の対極だ。これは前社長の影響もある。前社長は、指示したことはなんとしてもやり遂げさせるという強い統率力があった。それが会社発展の大きな原動力でもあった。その反面、「自分で考えなくても言われたことをきちっとやればよい」という風土が根付いた。

 上司と部下の関係もそうだ。何人かの社員に私が話を聞くと、「日頃から業務の指示以外で上司と部下の対話が乏しい」、「本音が言いにくい」、「意見を聞いてもらえない」という声があがった。上司が話を聞かず、頭ごなしに否定するので、自ら考えることを放棄しているように感じた。

 経営改革は新しく、そして難しいことへの挑戦を伴う。その挑戦をやり遂げるのは人だ。しかし、このような風土を放置していては人が育たない。そこで三津社長をはじめとする経営陣と私は、経営改革を実現するために、組織風土を改革し、自立型人財を育てることを決意した。

 

自立型人財を育てるミツ精機の挑戦

 

  • 計画と目標づくりの場でモチベーションを高める

まず中期経営計画の作成から取りかかった。それまでは経営者が計画を作っていたが、この時から部門長以上の全員が参加することを私は提案した。

六ヶ月間の計画づくりを通じて、部門長は会社の方向性を熟知し、やがて「会社に貢献したい」、「会社とともに成長したい」と感じるようになった。経営者と部門長、部門長同士に一体感も生まれた。経営者の思いを直接聴くことで、自分にかけられた期待と信頼も実感できた。会社の方向性に共感・納得し、部門長のモチベーションが高まった。

計画づくりの過程で、他部門の仕事の役割や課題、事情を知ることもできた。これは部門間の壁を崩す上で大きな一歩になった。

効果はまだある。出来上がった中期経営計画に基づいて、グループリーダーにチャレンジ目標を作成させた。自分の職場では何をやるのか、自己決定の機会をグループリーダーに与えたのだ。人は言われたことよりも、自分で決めたことのほうがやりたくなる。自らが考え、主体的に目標を作る場を作ったことで、目標に対する責任感が芽生えた。グループリーダーも、目標達成へのモチベーションを高めていった。

 

  • 計画と目標推進の場でモチベーションを高める

 計画を作るだけでは“絵に描いた餅”だ。そこで、計画と目標を推進するために、「進捗会議」「戦略会議」という会議体を新たに設けるよう提案した。

「進捗会議」とは、職場ごとの目標の進捗を確認し、問題があれば解決をする場だ。会議は一方的な報告や発表の場に終わることが多いのだが、ここでは問題解決を最も重要視した。ここで留意したことは、目標に取り組む上で直面するさまざまな問題に対して、発言しやすい環境を整えるということだ。現場での問題が提起されなければ、解決のための議論もできないだろう。グループリーダーからの問題提起や意見を積極的に取り入れることにより、「話を聴いてもらえる」、「自分の意見が認めてもらえる」対話の場として会議は機能し、その結果としてモチベーションが高まった。

また、「戦略会議」とは、部門をまたぐ問題について解決し、各部門で成果があれば共有する場だ。会議を始めたころは決まった人しか発言しなかったり、発言があっても周りの目を気にしたり、遠慮がちなムードがあった。しかし、しだいに、部門をまたぐ問題は本音で話し合い、成果をめぐって意見交換するなど、部門長同士の対話も促進されていった。部門間の協力はより一層加速し、もはや壁はなくなった。

ここであげた二つの対話の場、すなわち(1)計画と目標作りの場、(2)計画と目標推進の場は、組織風土を変える基礎となった。部門長同士が計画づくりに参加することで、互いに協力しあう関係ができた。目標をグループリーダーが決めることで、自分の目標を表明できる機会ができた。上司と部下が対話をする会議を設けたことは、お互いの話を聴き、認める関係にもつながった。こうして自立型人財が育つ土壌が醸成されていった。

 

  • 対話の場でスキルを高める

 基礎となる「場」ができたことで、組織のモチベーションが高まってきた。次に力を入れたことは人の育成だ。様々な場で人の育成を試みているが、対話を通じて品質改善力を高めている事例を紹介したい。

 当社では十二年間も改善活動を継続してきたこともあり、今でも残っているのは、容易に解決できない品質に関する問題である。それらを確実に解決していくために、複数の職場の人が集まって「品質会議」を開いている。

各職場で不良品がでると、実際の不良品を会議の場に持ち込む。不良品だけではなく、不良がでた際に関わった人も会議に呼ぶ。そこでQC手法やなぜなぜ分析といった手法を用いて、原因分析を複数の部署から出席した人で行う。組織の知識を動員して真の原因を探るだけでなく、それを他部署と共有し、全社的に再発を防止しようというのが狙いだ。手法の使い方や、事例と対策を共有することで、スキルの向上と水平展開が図られている。その結果、不良対策のレベルは全社的にも向上し、不良の予防効果も高まった。

 会議の参加者は、特に話しやすい雰囲気を作ることに留意している。不良を出した人を呼ぶと、ともすれば非難されていると感じ、自分の技量を疑われかねないからだ。

 

  • 対話の場でモラルを高める

 モラルを高めるために重視したことは、行動原則の作成と浸透だ。ミツ精機の社員として「これだけは絶対に守ろう」という約束事を明文化した。(図4)

 

図4 ミツ精機の行動原則

 

 これを組織の隅々にまで浸透させることについては、大きな工夫を重ねた。まずこの行動原則は、三津千久磨専務(現在は社長)が中心となって作成した。他の役員や部門長も含めて「まずは自分たちが率先して守ろう」と互いに約束した。社員には、その意味を理解させるために、中期計画の発表会で説明をした。さらに各職場においても、部門長からの説明の場を持った。これも対話の場だ。

行動原則に沿わない言動が見られたら、上司はその部下にその場で注意を促すことになっている。何が行動原則に沿っていて何が沿わないのかを、上司から聴く。その対話を通じて、行動原則の意味が伝わっていく。

人事評価項目に行動原則が考慮されていることも特徴的だ。年二回の人事考課では、行動原則を順守できたかどうか、自己評価を上司に提出することになっている。上司の認識と部下の自己評価にズレがあれば、ここでも話しあって修正している。

 

  • 対話の力そのものを高める

 事例をもとに、自立型人財の育成のベースとして、対話の場が重要であることを説明した。しかし場さえあればよいというわけでもない。対話の場において、お互いに納得や共感を生むやりとりができなければ、自立型人財の育成には効果がない。そこで、対話の力そのものを高める場を持つことを提案した。

 まず実施したのは研修だ。当初はコミュニケーションのテクニックを学ぶ研修を実施した。研修は回を追うごとにより実践的になっていった。単にテクニックを学ぶのではなく、実際の仕事に沿った研修になった。例えば、上司が部下の技量を評価するというシーンに絞って、どのような対話をすべきか学んだ。もちろん、実際に上司が部下を評価するのに使っている様式を用いての研修だ。

 対話の促進を目的として5S活動を始めたことも独特だ。「一人一役」というスローガンを掲げ、少人数のグループで活動をスタートしたのだが、メンバーには必ず何か一つの役割が任されるようにした。すると会議では、参加者は各自の役割を基軸にして議論に参加するようになる。自分に与えられた役割で「こんなことがあった」と話したくなるし、それを聴いてもらうことで認められた気持ちになる。そうやって話が弾み、対話の醍醐味を知っていった。

 

自立型人財が育ち、会社が変わった!

 

 これらの取り組みの結果、社員の行動は明らかに変わった。

 まずチャレンジ目標について、当初は、従来の延長線上の目標から抜け出せなかったが、今ではチャレンジ性の高い目標を自主的に揚げている。

 自分たちの意思で始めた活動も多く見られるようになった。例えば「マイテープ作戦」がある。テープとは部品を加工するためにプログラムされたNCテープのことだ。あるグループが、自分の職場で使うテープを改良することによって、機械の稼働率をあげようと始めた活動である。今では他部門も巻き込み、規模の大きな活動になっている。

 最後まで諦めない、粘り強い活動も定着してきた。ある時、ケタ違いの多品種・少ロット部品を製造することが決まり、加工が始まった。それが生産全体に大きな影響を与え、納期順守率が下がり始めた。歯止めをかけるため、部門横断的な「納期管理プロジェクト」に取り組むことを私は提案した。メンバーはプロジェクトの中で互いに協力しあい、時には激しく本音で議論をしながら、問題点を浮き彫りにしていった。従来からの加工方法や管理方法を見直し、試行錯誤を繰り返し、納期順守率も回復していった。

 社員の行動の変化は、経営改革にも好影響を与えた。難しい仕事が要求される航空機部品の難削材加工で、着実に加工技術を高めると同時に、大幅な製造コストの削減を実現した。経営改革を始めた十二年前にはまだ新規事業として不安定要素もあったが、お客様からの信頼も獲得し、受注量を伸ばしていった。当初、「総合評価日本一を目指そう」というスローガンを掲げていたが、直近の中期経営計画では「総合評価日本一になる」という明確な目標になった。ついに日本一が視野に入ったのだ。

 

 私自身ミツ精機の改革に関わることで、多くのことを学んだ。最も強く確信したのは、自立型人財を育てるには、掛け声や一般的な研修だけでは不十分だということだ。社員が自ら考え行動しないのは、当の本人だけに問題があるのではない。そのような社員の自主性を阻む組織風土の問題もある。風土にメスをいれなければ、いくら本人に激を飛ばし研修を受けさせても、一時的に気持ちは高まるかもしれないが、持続はしない。

 対話の場として、モチベーションが向上する場と、スキルとモラルを育てる場を、会社として設ける。それが社員を自立型人財へと変えるのだ。

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